京都に住んでいる私が日々探しているものは落ち着いて人と話せて、なおかつ遅い時間まで開いているカフェだ。京都の街は木屋町を除くと寝静まるのが比較的早めの土地なので、この2つの条件を満たしているお店はそんなに多くない。
この前仕事終わりに訪れたのは四条河原町を少しくだったところにある『喫茶上る』だ。カフェ好き、京都好きにはとても有名なお店だと思うが、つい先日初めて行った。現在は通常営業時間で営業ができていないようで(ブログを参照)、なかなかタイミングが合わなかったのだ。何度かの空振りののち、友人とゆったり話をするというシチュエーションが巡ってきたので『喫茶上る』のことを思い出した。その日は営業している日であることを確認してお店へ向かう。
あたたかな光がともる入り口を目にして家に帰ってきたようなほっとした気持ちになった。お店の中へ足を踏み入れ、畳とちゃぶ台、座椅子に下げてあるひざ掛けを見て「ただいま〜」と言いそうになった。決して広くない空間がさらに自分を落ち着かせてくれる。
高瀬川の望む窓際の席に座って、バターあんこトースト(300円)とコーヒー(500円)を頼む。PCも持ってきていて、友人を待つ間は抱えている仕事を処理するつもりでいた。ふと窓の外に目をやると、光に当たる雨と、足早に家路を急ぐ人の姿が目に入った。その奥には木屋町の南側、ぼうっと灯りの灯った風情ある街並みが見える。桜は今日の雨で散ってしまいそうだ。京都に住み始めて丸6年、7回目の京都の春を窓越しに眺めていて、なんとなくPCを出す気が失せた。普段京都の北側に住んでいるので、こうした京都らしい風景には未だに感動したりしてしまうタイプだ。店主さんがコーヒーを準備してくれる音を聞きながらぼんやりと待ち時間を過ごすことにした。
毎日大量の情報にさらされ、少し疲れていたのかもしれない。4月から始めた新しい仕事には少し慣れてきたけど、それでも新しい環境で感じるストレスは拭いきれない。もちろん生きていく中では大きな支障はないけども。そんな時に家ではないのに、まるで家のように落ち着ける喫茶店はまるで自分の心を浄化してくれるような優しさがあった。大げさと言われるかもしれないけど、こういう場所も、こういう時間もこの歳になると結構貴重な気がする。
友人が20時頃に到着して、そこから約3時間ぶっ通しで話をしていた。あっという間の3時間。気がついたら私が喋り過ぎてしまうのだけど、この日は友人の話もじっくり聞けた。気がついたら付き合いも長くなってきたけど、彼女の腹のそこの思いをすこーしだけ聞けたような気がしている。かしこまった、雑音の多いカフェではなくて、この日に『喫茶上る』を選んだのは正解だったのではないか、と振り返って感じている。
烏丸三条のスターバックスやアンデパンダンといった23時ごろまで開いているカフェはいくつかあるけれども、大事な人と、大事な話をゆっくりしたいときには『喫茶上る』を使いたいと思う。もちろん人と行くのもいいけど、ちょっと疲れたときに一人でも立ち寄りたい大事な場所がまた一つ増えた。
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